大切なものは

第 27 話


レトルトや缶詰もけっこう食べれるものだと感心しながらルルーシュは箸を進めた。サラダ用の野菜がパックされたものも便利だなと言うルルーシュに、アッシュフォードに匿われ咲世子が世話をしてくれていたからレトルトなんかを食べずにいた、食べなくてもいい生活をしていたのだと気づき、スザクはフクザツな心境になっていた。
それは自分とは違い、大人たちに守られていたことへの嫉妬なのか、二人が大事にされていたのだということへの安堵なのか。喜怒哀楽どの感情なのかもわからない。

「・・・どうしたスザク、箸が進んでないぞ?」

作業中に何度か腹の虫も鳴っていたのだから、腹が減ってたんだろう?といわれ、考え事ばかりして食が進んでいなかったことに気づき、スザクは箸を動かし始めた。

「・・・こんな時間の食べるのは健康に良くはないが」
「時間は気にしてない」
「そうか、なら早く食べてしまえ」
「きみも早く食べなよ」
「俺はいつもこのぐらいだ」

一人前には到底足りない量で食事を終わらせたルルーシュは、残りは全部食べるようにスザクに言った。普段のルルーシュの食事量より少ない。これが初めて一緒に食べるなら、ルルーシュの体型から信じてしまったかもしれないが、クラブハウスで何度も食事をともにしたのだから嘘だとすぐわかる。なんでこんなわかりやすい嘘をと思ったが、すでに夜中。ここで喧嘩して無駄な時間をかければ、睡眠時間がそれだけ減る。今は一兵卒時代とは違いラウンズなのだ。最高のパフォーマンスができる体調を維持するためにも、睡眠をこれ以上削る訳にはいかない。

「なら、シャワーを浴びて寝たら?」
「・・・そうだな、そうさせてもらおう」
「食器は僕が片付けるよ。ついでだから」

食器を手に立とうとしたら、スザクが立ち上がりそれを制止した。

「自分のことぐらい」
「今は、迷惑だ。わかるだろそのぐらい」

冷たい声で告げたスザクは、つかつかとルルーシュの横まで移動し、その腕を掴み、半ば引きずる形で脱衣室に押し込んだ。

「おい!俺は!」
「着替えとタオルは後で持ってくる」

有無を言わせずドアを締めた。
抵抗する間もなく閉じ込められたルルーシュは、ドアを睨みつけた。
一方的に、こちらの動きを制限する。まるでおまえは無能だといいたげに。ルルーシュは苛立たしげに壁を右手で殴った。ドン、と大きな音があたりに響く。
それは当然、扉の向こうのスザクにも聞こえていて。

「・・・右手も、使えなくなったらどうするんだ」

片手だから何をするにも時間が掛かるし、片目だから遠近感がつかめず、何をするにもたどたどしくなる。傍から見ていても、普段の手際の良さは無く、ルルーシュは常にイライラしていた。本人は隠しているつもりだろうが、ピリピリした空気に気がつくなという方が無理だろう。
この程度のハンデで、と言いたくなる。生きているだけありがたいと思え、ユフィにはそれさえ出来ないのだから。
ナナリーだって足と目が不自由なのに生きている。
ブリタニアに戻ったら酷い目に遭うと言っていたけど、ナナリーは大事にされているから、ルルーシュの思い込みに長い間付き合わされ、犯罪者の妹になってしまった。
ブリタニアの皇族なのだから大事にされるのは当たり前・・・。
そこまで考えて頭を振った。
ユーフェミアと今のナナリーの環境を見慣れてしまって大事なことを失念していた。・・・二人の母は暗殺された。そして未だに犯人が見つかっておらず、探している様子もない。これは内部犯の可能性が高いということ。皇帝は弱肉強食を国是とする人物。二人の母が暗殺されたのは弱かったから。弱いということは価値がない。価値がない人間の子供であるルルーシュとナナリーの価値もなく、何よりナナリーは身体的に皇族の誰よりも弱者だ。
ナナリーが大事にされているのは、強者であることを明確に示したゼロの妹だからだ。ルルーシュはもうナナリーと直接会うことはないだろう。そして、ナナリーを守るためルルーシュは最も憎んでいる父親の騎士として、死ぬまで。
・・・・・・・・。
・・・ルルーシュが落ちつくまで放っておこう。
だが、ルルーシュのイライラはなかなかおさまらず、シャワーを終え、ベッドに入った後も眠りにつくことはなく、スザクは気になってなかなか寝付けなかった。

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